FC2ブログ

Home > なのはパラレル長編 『七色の闇』 > #6

#6


#6。

というか春休みラス二日。

えちょっとまだ宿題手つけてないよぼく。
というかそもそも美術部のくせに土日以外毎日あるとか塾とか毎日あるとか

もう平日と変わらないむしろ逆に平日よか疲れるってどゆこと?

でも…
いいんだ。

塾の帰りみちに友達(♀)とデートできるから(氏ね

というわけで←
追記からどうぞ。










「―何、手紙?…いいよ、其処に置いといて」

金色のシールで口を止められた白い封筒が、綺麗に拭かれたテーブルに置かれる。
宛名はナノハ・タカマチ。差出は管理局本部から。

先の声の持ち主は、興味なさ気に、あるいはそう見えるように平静を保ってそれを見つめた。



#6『 痛苦と快音 』


透き通った窓硝子。
強靭に見えるようで、少し叩けば割れてしまいそうにも見える。
その硝子に反射され、外の明るい陽光を浴びる女性が居た。彼女は少し息を吐いた後、口を開いて声を発する。

「出かけるよ。付いてきて」

理由も場所も告げず、彼女、ナノハはぶっきら棒にそう言った。
ぞんざいなその言葉に、少女、フェイトは怯んだが、抵抗しようと二言三言文句を言った。
しかし、何時もなら微笑みながらかわすであろう彼女は、冷たく、只冷たく言い放つ。

「いいから」

怒り、なのか。ナノハの瞳は揺らいでいた。
フェイトは呆気に取られて何も言えなくなる。ナノハに引っ張られるが儘、外へと連れて行かれた。
レイは何も言わず付いて行く。黒い髪が靡いて揺れた。

「レイジングハート。お願いね」
「はい、我が主」

それだけで、それだけの言葉で、フェイトは二人の絆の深さが、信頼の強さが良く分かった。
信じあえる相手が居て、これほどまでの偉大さを感じられることを、フェイトは純粋に羨ましいと感じた。

厚く、重い扉が開かれる。
魔法での開閉式なのか、それはナノハが立つと自動的に外界の風を通した。
眼前に、眩しいほどの光が放たれる。フェイトは思わず目を細めた。

碧空が、ナノハを見下ろす。ナノハは俯き、その眼は陰になって見えない。
扉が開けきるのを待ち、ナノハは大地を踏んだ。

途端に、桜色の翼が羽根を、光の粒を撒きながら現れる。

それはこの世の何よりも美しく、そして何より哀愁を帯びていた。
蒼茫の瞳が上を向く。威厳に満ちたその背中は、まるで硝子のようだった。

そして、彼女は天使のように、悪魔のように、その翼を羽ばたかせて離陸する。
その腕には、何も抱えていない。フェイトは汗って飛行魔法を展開した。

ナノハの瞳は、毅然としているようでどこか濁った色が混ざっている。

「気を付けてね、フェイトちゃん」
「え…」

風で消されそうになり、しかし確かにフェイトの耳に届いた言葉。それは、自分の身を案ずる言葉だった。
フェイトは驚き、しかしそれを言った本人は何事も無かったように飛翔していたので、取り敢えず何も聞かなかったことにする。

レイの緋色の瞳が、微かに細められた。
それは、風に当たるからなのか、そうでないのかは分からない。顰められた眉が何を意味するのか、誰も知らない。
レイは、知りたくも無かったし、知る必要も無い。そう思った。



 ◇

「着いたよ」

荒野に、およそ数百人程の人間が、テントを張って暮らしていた。その人間の大体が、日焼けした体躯の良い男性で占められている。
岩が幾つかあるだけの、緑も何も無い其処は、反乱軍のアジトだった。

フェイトは密かに息を呑む。
皆が皆、気迫と殺気に満ちている。まるで地獄の果てのようだった。

「二度と、関わる気はなかったんだけれど…。
管理局直々のお願いじゃ、断る訳にもいかなくってね」

ナノハは誰に聞かせる訳でもなく、呟いている。
怒りの意味は。濁った瞳の真実は。

「迂闊、だったよ。ここまで馬鹿だったんだね、人って…」

彼女に送られた手紙は、非常に簡単な内容であった。
その手紙は、ナノハの手に燃やされて灰となってしまっているが、その文を思い出すだけでも、ナノハは怒りを隠せなくなる。

「本当なら、フェイトちゃんを連れて来たくなんてなかったんだけど…。
これも向こう側が付けた条件…。本当に、何考えてるんだろうね。あのおじさんたちは」

手紙には、要点のみが絞られて書かれていた。
ナノハが仕事を受けた町の反乱軍が、再び何らかのきっかけにより勢力を取り戻したこと。町の警察が、ナノハを強く推したこと。再び鎮圧を依頼するから、向かってほしいということ。死者が現れてしまう前に、早急に頼むということ。そして、フェイト・テスタロッサを同行させて欲しいということ。

最後に、一文。

「人の心を、弄ぶ、か…」

掠れた声で、それは周りの煩い声に消された。しかし、フェイトとレイにはよく聞き取れた。まるで脳に直接言われたかのような鮮明さだった。

「フェイトちゃんはそこで待ってて。条件は同行だったから、戦闘に関しては一切干渉させない」

フェイトがその言葉の意味を考え、言葉を発するより先にナノハは続ける。

「直ぐに終わるから。だから、お願い。
危険な目になんて遭わせない。全力で守ってみせるから」

どくん、と。
フェイトの鼓動が、高鳴った。

―悪魔?魔王?
違う…。

フェイトは何も考えられなくなった。目の前の事実と、過去の記憶がすれ違う。
目の前に居る存在は、人の心を、命を、何とも思っていない卑劣な奴ではないのか。

疑いが、走る。

「レイジングハート…。サポートを」
「はい、主」

目が、手が、身体が震える。
紅い瞳が、信じられないもの、信じようとしているものに震えている。
凛とした蒼い瞳が、人を助けようと…している。

怒りの意味は、
言葉の真実は、

「殺させない…。殺させて、堪るもんか…」

ぐ、と。?左手?が握られた。
白い手袋から桜色の魔力光が現れる。
同時に、強く怒りと悔しさの滲んだ翼が生えた。

「なんで…!どうして!?」

フェイトの問いに、答える者はいない。
ナノハは静かに翼を揺らして、去っていった。

「どうしてそんなに、自分を…!」

フェイトは分かっている。ナノハの怒りが、ナノハの瞳の揺らぎの意味が。全て分かった上で、否定する自分と、事実が交差する。

―彼女が怒気を向けているのは、
―彼女が冷静さを欠いている理由は、

「悪いのは…お前じゃ、ないのに…」

何を言っている。あいつは悪魔だ。人の心を弄ぶ、凶悪な悪魔なんだ。
恨め、憎め、迷うな、疑うな、そして狂奔しろ。

「あいつは…、犠牲を出さずに…救ったんだ…。誰も殺さないように…、誰も傷付かないように…」

フェイトの脳髄が痛みで侵食される。もう、何も考えたくなかった。もう、全て捨てて楽になってしまいたかった。

「悪いのは…」

飛んでいった魔力を確認した兵士が、フェイトに気づいた。彼らは常に懐に忍ばせていた刃物や銃器をフェイトに向ける。フェイトは見向きもせずに俯いて震えていた。
それを恐怖しているのだと思った兵士は、不気味に笑って引き金を引いた。

「悪いのは…、気づいていないお前らなんだ!!」

‐死んでいた‐瞳が、少しだけ生気を取り戻したように見えた。
それと同時に、周囲が金色に染まり――



「―馬鹿…。大人しく隠れてろって言ったのに」

遠くで桜色が爆破した。
それが打ち抜いたのは、彼らの反乱の為に使われようとしていた銃や大砲に爆弾といった兵器の保管庫だった。それらは粉々に砕け散り、綺麗な桜色の塵と化す。
ナノハはあくまで冷静に、狙いを外さぬよう二つ目の武器庫を破壊しに掛かる。

「主…。主の条約に、大人しくという言葉は入っておりませんでした。
つまり、あれがどう暴れても、あれがきちんとあの場で待っていれば、主に文句は言えません」
「…レイ、なんか怒ってる?」
「いいえ、別に」

彼女らを何とか止めようとして打ちこめられる弾丸をレイが阻止する。そしてその武器を紅い血のような魔力弾で打ち抜く。コントロールは正に百発百中だった。
レイは両利きだったが、いつもは右手を使っている。特に理由は無い、らしい。

「いいけどね…、強い魔力は感じられないし、見たところ強そうな兵も居なかったから、フェイトちゃんくらいの魔導師なら先ず負けないとは思うし」

二つ目を撃破し、三つ目も蟻の巣を踏み潰すように容易く粉にした。兵士は、これも蟻の如く列を成して二人に立ち向かう。そして、埃のように掃かれた。

「残りの武器庫は北西に二つです。それを破壊した後、軍の首位が居るテントに向かい倒せば、恐らく彼らも鎮まってくれると思われます」
「そうだね…。でも、その後にやることもあるよ」

ナノハが微笑み、レイが笑う。
背中を合わせて戦う二人は、地上から見る兵士が思わず震えて膝を崩す者が出る程に、怖いほど美しかった。

「さあって、取り敢えずここの掃除を終わらせないとね。レイ、確認お願い」

ナノハの右腕が宙に上がる。彼女が展開しようとしている魔法は、以前この町に訪れた時の最後に使われたものと同じもので、特定の物質のソースを破壊して消し去る能力を持つ魔法だった。
レイが確認するのは、魔法の効果の範囲内に破壊したら危険なものや問題が生じるものがないか、効果の中に破壊する必要の無い物質はないか等と言ったこと。
ナノハとレイは一部だが思考リンクがされているので、情報のやり取りを容易にこなすことが出来る。

「…全て問題ありません。完璧です」
「よし、展開完了。ありがとう、レイ。それじゃあ、発射!」

キン、と澄んだ爽快な音が響いたと同時に、その場の銃や刃物が消し去った。
因みに余談なのだが、そんな便利な魔法があるならどうして最初から使わないのかというと、実はこの魔法は魔法に対しての効果が零に近い。つまりこの場の武器庫は全てが魔法の壁で構成されていた為、仕方なく直接撃破をしているのだ。
いつもなら面倒くさいし気だるい作業はパスしてとっとと片付けるというのが主流なナノハにしては珍しい行動だった。

「近づいて来てくれたら、じゃんじゃん破壊できるんだけどね。こういうのは、こうするしかない」

北西に向かいつつ、ナノハは呟いた。ナノハが魔力を感じ、下を向く。そこには埃のような魔力の持ち主の魔導師がいた。
彼はナノハに向かって小さな魔法弾を飛ばす。そしてそれは跡形も無く消えた。
ナノハは右腕を上げ、リンカーコアの破壊魔法を展開し、使った。この魔法は相手が弱ければ弱いほど効果が大きく使いやすい。なので、自らの魔力を消費するのも勿体ないという相手にのみ使われることが多く、魔力消費は最小限に抑えられている。

そして、そこから数分も掛からない内に二人は武器庫に到着した。レイの情報通り、そこには二つの倉庫があった。
一つは、一般の一軒家程の大きさ。もう一つはそれの倍くらいの大きさだった。今までの三つの、テント程の大きさのものより強力そうなものだった。しかし、ナノハにとっては砂壁が折り紙に変わった程度の違いなのだが。

「…この武器庫も、あの倉庫も、大したことは無いんだけど…。
これを張った奴は気になるかな…。そこそこ腕がいい」
「そうですね…。並みの少し上、といったところでしょうか」

レイが右腕で魔力光を作って飛ばす。それは小さい方の武器庫を破壊した。
ナノハも同等に、左腕を光らせて、レイの半分以下の時間で十倍以上の力を持つ弾を放った。
大きい方の倉庫も、一瞬にして大破し、塵と化した。

「どーん…っ。罠は、…無いね。あってもあんまり変わらないけど」
「油断は禁物ですよ。…油断していても集中していても、貴女の場合は大差ないかと思いますが…」
「…やっぱり何か怒ってるよね、レイ」

飛んでくる弾丸を落として銃器を破壊するといった作業を繰り返すレイを、ナノハは少しだけ見て、直ぐに物質破壊の魔法を展開した。そして、その場の武器が全て消える。

「武器庫も武器も、殆どが潰れました。恐らくこれで軍の力もほぼ無くなったと思われます」
「そだね。それじゃあ軍のボスにでも、挨拶してくる?」

ナノハが微笑んで、翼を少し揺らした。レイもつられたように笑い、そうですねと一言呟く。
二人が向かうのは、直ぐ目の前に聳え立つ塔のような建物だった。それは二百メートル程の大きさで、中途半端に大きかった。白と黒で塗られていたが、かなり適当な出来だった。
ナノハは汚い塔だね、と短く評価して内部に潜入する。外から大破しても良かったのだが、何人か関係の無い一般人が捕まっているのだと聞いていたナノハは、一番上の屑だけを潰すことにした。

「こっちの塔の見張り…、外の連中よりちょっと強いね…。蟻から蝿に昇格かな?」
「となると、首位はゴキブリか何かですか?」
「ゴキブリは生命力高いよ。消しちゃうから意味無いけどね」

小さな笑い声が木霊する其処は、幅の狭い廊下だった。コンクリートで作られている為、二人の無機質な足音が良く響く。鍍金の人がやっと通れるくらいの大きさの扉が数十歩置きに付いていたが、二人は見向きもせずに階段を淡々と上っていった。

「…面倒だな、この塔。エレベーターでも設備してくれたらいいのに」
「見たところ、ただ上に大きくしただけで予算が無くなったのかと思いますが…。随分ボロボロですし」

レイは手を伸ばせば直ぐに触れる壁を見つつ言った。壁は所々に拳くらいの小さな穴が開いていて、隙間風がうねるように音を立てている。

「まだ半分くらいか…。まどろっこしい。抜けるよ、レイ」
「そう言うと思っていましたよ」

ナノハがくすりと笑った。右手を外側の壁に向け、目を細めて魔光を放つと壁は桜色に変色して溶けていく。半秒程経つと、其処には何も無くなっていた。

「飛ぶよ」

その言葉と同時に、その場の床は砕け散った。ナノハは勢い余り過ぎたのか、塔から少し離れすぎてしまった。少しスピードが緩んだところで急カーブすると、後は天辺を目指して上昇を続けた。塔との距離を数十センチまで近づけて、擦れ擦れのところを気持ちよさそうに飛んでいく。その姿は正に昇り龍だった。

「最初からこうするんだった。もう着いちゃうよ」
「ある程度内部の状況も調べておいた方が安全です。罠が仕掛けられているかもしれないですし」
「効果の無い罠なんて、無いのと同じだよ。超巨大破壊爆弾とかなら、話は別だけどね」

レイは鳥のように優雅に飛んでいる。紅い光は彼女を包み込み、煌々と輝いていた。
一分ほど経ったところで、頂上が見える。塔を作る過程にトラブルか何か生じて、これ以上作れなくなり仕方なくここを天辺にした、という感じだった。明らかな違和感が否めない。

「まるで子供の工作のような塔…。反乱軍ってよっぽどの馬鹿なのかな?」
「罠という罠も皆無でしたし、警備も薄い…。恐らく襲撃前で、そちらの方に気が行ってしまったのかと」
「まあ、何でも良いけど…。行くよ」

そして二人は勢い良くボスの居る部屋に、突っ込んだ。
鉄の砕ける音やガラスの割れる音と共に、間の抜けた悲鳴が聞こえる。

「うわ、悪趣味な部屋…。なにあの鹿の頭」

剥製のそれを見ながら、ナノハは足元の瓦礫を蹴った。そこには皮製のソファーとガラスに木で作られている机、茶色い棚といった社長の部屋みたいな光景が広がっていた。
ナノハは溜息を吐いて、目の前で尻餅をついている見た目二十代前半の、まだ若い男性を睨んだ。スーツを着て、反乱軍というよりかはサラリーマンの方がよっぽどしっくり来るその男性は、ナノハを見るなりガタガタ奥歯を鳴らしている。

「君が、リーダー?」

男は泡を吹きそうになるのを必死に堪えて、誰だ貴様は、などと嘆いている。ナノハの質問に答える様子は全く見せない。ナノハは呆れると、また一つ溜息を吐いた。

「もう一度聞くよ。君がリーダー?」

ナノハの射抜くような視線と言葉に、男性は恐怖し諤々と仕切りに頷いた。立とうと、あるいは逃げようとしたその男性は、近くにあった観葉植物に手を掛けて、倒した。
更に慌てた男性は、何とか自力で立ち上がろうとして、足元に落ちていた紙で転んだ。
ナノハは本当にこいつがボスなのかと疑ったが、別に力量の無い将なんて腐るほどいるものだし、と思いとっとと潰すことにする。このとき、ナノハが思い浮かべた力量のない将がシグナムだったということはナノハ以外誰も知らない。

「率直に言います。反乱軍を壊滅させて下さい。因みに拒否権はありません」
「だ、だれが…っ!王政なんかに従うものか!!」
「あなた方の都合なんて知りません。壊滅させて下さい」

冷ややかな目で、ナノハは男性を見る。男性はやっとの思いで立ち上がり、警報機を押そうと手を伸ばした。が、その警報機は桜色の閃光によって跡形も無く消え去った。

「未だ話の途中です。交渉が成立するまで邪魔はさせませんよ」
「…ちっ!」

男性が舌打ちをすると、彼はその場に魔方陣を展開させた。その魔法光の色は、武器庫に張られていたものと同じ。背後に炎のような光が立ちこめ、それは現れた。

「召喚獣…」
「政府の犬が!何が魔王だ、屑め!!」

紅い、蜥蜴が巨大化したような獣に彼は跨って、ナノハが入って来た穴から逃げ出した。
最早捨て台詞にしか聞こえないそれを、ナノハは三度目の溜息で返す。
外は澄んだ蒼穹から、灰色の淀んだものに変わっていた。

「追うよ、レイ」

小さな囁きと共に、ナノハはその場の床も破壊させた。
桜色の翼が、出来損ないの白い空を舞う。遠くで、落雷が鳴っていた。

ナノハは直ぐにボスに追いつく。レイは桜色の魔力光を纏った右手を振って、召喚獣を小鳥でも落とすかのように打ち抜いた。獣の叫び声が響く。獣は反撃しようと口を開けて振り向いたが、それより速くナノハが先の砲弾の数百倍程の砲撃が飛んできた。
獣はどうする事も出来ず、地上へ落下した。

「呆気無いの…」

ナノハが詰まらなそうな顔を見せる。
しかし、それは一変してしまったというものに変わる。レイも、それに気づいた。

「あそこって…、フェイトちゃん…!」

獣が落下したそこは、ナノハがこの地に着いた其処。
すまり、フェイトの居る所だった。
今度はナノハが舌を打つ番だった。ナノハは垂直に下へ降りる。かなりの速さだった。
レイも続いて落下する。その表情は無機質で、しかしそう見せる為に必死でもある顔だった。

ナノハたちの、直ぐ下。
フェイトは軍の下端と戦い続けていた。

「この餓鬼!生意気なんだよ!!」

兜と鎧を着けた兵がフェイトの頭上に斧を振り下ろした。
しかしそれは金色の刃によって食い止められ、怯んだ兵に向かって容赦なく魔法弾を撃ち込んだ。

「コイツ…、餓鬼のくせして何つーパワーだ…。百対一でこっちが負けてるなんて…」

フェイトの背後に魔力弾が幾つか出来る。それは一斉に兵士たちの身体に襲い掛かった。
鈍い、骨が軋む嫌な音と共に、彼らは気絶し倒れる。フェイトはばててすらいない。
余裕の表情で、目の前の敵を討伐していった。

少女は、分からなくなっていた。
自分が何をやっているのか、どうしてここに居るのかすら。
少女には分からなかった。

「死ねぇ!!」

最後の一人が、その言葉を言い終わり、倒れた。
フェイトが、息を吐く。

そして彼女は、油断した。


「フェイトちゃん!!」


砲撃を撃たれ、怒り狂った召喚獣が、炎を

「っ――…!」

放った。

フェイトは咄嗟に盾で防いだが、間に合わない。
獣の叫びが高く、高く響いた。
灰色の空が、雨粒を下界に送る。一つ、また一つと。

未だ響く、耳が壊れそうになる獣の鳴き声を、桜色の光が、止めた。


『―危険な目になんて遭わせない。全力で守ってみせるから』


偽りなんて無かった。つもり、だった。
その自信も、確信も、全てがナノハにはあった。

それなのに。


―傷つけてしまった。

ナノハの息が荒れる。雨に打たれて冷えていく身体が、どうしようもなく寒かった。
前髪で、その眼は隠れてしまっている。彼女の微笑みは、消えていた。

「ぐ―、はっ…」

その様子を、土砂降りの雨の中霞んでしまっている視界を凝らして、フェイトはよろけながら見つめていた。
身体の彼方此方が火傷を負っていて、熱く冷たく痛かった。己の失態を悔い、痛む腕を強く握った。
世界が、無音になった気がする。雨の音も雷の音も、自分の息や鼓動さえも聞こえない。

そんな世界に、

「――…え?」

温もりが、差した。

気配すら感じなかった。あれ程の威圧感を放つ彼女が、霧のように儚く感じた。
温かい、だけど冷たく弱々しい腕。それがフェイトを優しく包み込んでいた。

何時も、微笑みを崩さなかった彼女が。
何時も、誰よりも強く、届かないところにいた彼女が。



「――ごめんね…」



その時のフェイトには、堪らなく愛おしく感じた。

雨は、容赦なく二人の体温を奪う。
しかし、フェイトの鼓動は早まり、鼓動は加速した。

熱くなる。

背中に回されている腕が、耳元で感じる彼女の吐息が。
全てが、フェイトを焦がしていった。


「どう、して―…」

フェイトの思考から、瞳から。
復讐や仇といった言葉が消された。

―それは、愛おしさなのか。儚いものに対する同情なのか。


フェイトはそっと、ナノハの背中に、手を回した。



流麗な雨が譜面に滲んだ。
指揮者が狂い、曲が壊れだす。
悲哀が、世界を包む。人々は嘆いて、震える。


それは、悲しく、そして短い、唄だった。


スポンサーサイト



Comments:0

Comment Form
サイト管理者にのみ通知する

Trackback+Pingback:0

TrackBack URL for this entry
http://nfh0rbs758.blog73.fc2.com/tb.php/35-45416a44
Listed below are links to weblogs that reference
#6 from 黎明の月

Home > なのはパラレル長編 『七色の闇』 > #6

Tag Cloud
Search
Links
Feeds

Return to page top