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#3・前


#3です。
追記より。








モノローグが綴られる。哀しみで埋められた台詞が、漣となって。
詠む者は叫び、訊く者は嘆き、観る者は震えた。

それは、短い唄だった。

#3『降り掛かる光彩と黯然』


純白の、殆ど何もない部屋だった。

数少ない家具の一つであるソファに、少女は寝かされていた。

瞼は閉じられ、小さく息を立てて眠っていた。

余程疲れていたのか中々起きる気配はなく、数時間と経過した今も少女の瞳が外界に晒される事は無かった。

今は、宵に近い時刻。

明星が輝き、月光が煌々と大地を照らしていた。
ナノハはそれを黙って見ている。

彼女は眠りにつく様子を全く見せなかった。彼女は眠る必要が無いのだ。娯楽と称して昼寝をする事は多々あったが、彼女は夜が好きなので、基本的に日没後は寝ない。

今宵の彼女も、例外では無かった。
ナノハは何時も通り、白銀に光る満月を眺め、その時を過ごしていた。
飽きること無く、ただ見つめている。
微笑みながら、見続けていた。

レイは、これも何時も通り、辞書のように分厚い本を広げ、やはり眠らず、飽きること無く読んでいた。

城の一室。
静かに頁を捲る音だけが、響いていた。



―「風が、」

凛と、声が通る。

宵闇の漆黒に溶け、それは続けられる。

「気持ち良いよ、レイ」「―そう、ですか…」

空を眺め、仰ぎ。
穏やかな相貌で、ナノハは微笑んだ。

目を細め、彼女は従者を一瞥した。
バルコニーのテラスに体の重心を預け、頬に手を突いている。

勿論、そこも漆黒の夜に似つかわしく無い純白で塗装されていた。

「…白と、黒ってさ。圧倒的に、黒が優位だよね」

「……」

「でも、白が黒を味方に付けた時…。
白は強くなるんだろうね。向かう所敵無しって言えるくらいに」

黒天に臨み、彼女は詞を連ねた。

「―でも、その時の白は白なんかじゃない。
‐本当の白‐は、黒なんて滲ませない」

「主…。
それは…、私が聞くには少し…」

レイの言葉を遮り、ナノハは続ける。

「真っ白な羽根を求めて、黒に染まって言っているのが、悪魔なのかな」
「…お止め、下さい」

「堕する事しか出来なくて、決まっている事なんだと圧し殺して」

変わらない表情。
何時も通りの微笑であった。

まるで現を言葉にしているように、口を開いて閉じてを繰り返し声を吐き捨てた。

「主…、少し休むと良いですよ。お茶でも入れます」

「天性を授かって、故に堕ちて、滅びを待つだけの時間を刻んで」

届かない声はナノハの耳をすり抜ける。

遂に痺れを切らしてレイは、声高に叫びナノハの言葉を強制的に止まらせた。

「―…主。
威厳と誇りは捨てずに冷徹な、人の上に立つ者として相応しい言動で常に有ると云う事が、私が貴女の下へ就く事の最低条件であると申した筈です。
お忘れですか?」

バンと音を立て、本を机に叩き付けながらレイは勢い良く立ち上がった。
ナノハは漸く言葉を止めた。

そして、微笑みながら夜空に広がる星雲を見て、ふうと一息吐くとゆっくりと目を閉じていった。
しかし直ぐに開き、その身を軽く翻しレイの居る方向へ転換した。

「…御免ね、レイ。
少し疲れているのかな。休む事にするよ」

正気に戻ったのか、ナノハは常の言動を取り戻した。

レイは、いえとだけ言うと、霧のようにそこから去って行った。

それは、怒っているのとは違う、寧ろ安心し一息吐かせて欲しいと言っているもののように見えた。

「…ありがとう、レイ」
届いたかどうかは、分からない。
小さく呟いたナノハも、軈てそのフロアから去って行った。



* * *


明朝、まだ太陽が昇りきっていない頃に、少女は起きた。

紅眼の少女は全貌を見据え、寝惚けて働かない脳髄を無理矢理叩き起こし、状況を把握しようとした。

少女の記憶にフラッシュバックしてきたのは、波の音だった。

その音に合わせて、幾つもの出来事が蘇って来る。

少女が、一番大事な事を思い出しそうになった直後。

少女は自分の真横に居る存在に、気が付いた。

「――……っ!?」

「ん…ぅ」

少女の瞳孔が引き締まった。
隣には、少女が探し求めていたそれが、静かに息を立てて眠っていた。

少女は柔らかな亜麻色の毛髪を見つめ、絶句していた。

そして、少女はまだ目覚め切れていない身体で、ゆらりと右腕を上げた。

―出てきたのは、金色の刃。

少女の髪と同色のそれは、美しい寝顔のナノハに、向けられた。

澄んだ金色の刃先は、白い首に降ろされる。

ひゅん、と音がして、そして、止まった。

「―…行き成り攻撃?
ちょっと、礼儀がなって無いんじゃない?」

人差し指の先端が、刃の穂先を、まるで枝でも止めるかの様に一滴の血すら垂らさず止めていた。
少女は再び、絶句させられる。

ナノハはそれを見ると面白そうにくすくすと笑った。

「でも、不意打ちも立派な戦法の一つだからね。私には一切通じないけど」

ナノハの指先が薄く桜色に光る。
そして、刹那に金色は桜色に染まった。

ふわりと優しく、光は消えていく。

少女は何が起こっているのか、理解が出来なかった。

「どしたの?
あんまり隙見せると、死んじゃうよ」

真顔で囁き、笑顔を見せる。
眩しいそれは崩さないまま、ナノハは少女に更に言葉を続けた。

「綺麗な魔力光、もっと見たいな。
ちょっと戦ってみよっか」

それは、少女が自害に追いやられるまで求め続けていた願望だった。

それが、叶う。

死の境目にして現れた、奇蹟。

神の気紛れが、‐幸運‐が、少女に降った。


「…目、死んじゃってるね。
でも戦いたさそうな顔。変なの」

ナノハの言葉は届かない。
少女は亡霊の様にベッドから立ち上がり、戦闘体勢に入った。

金の光が、剣になる。


「…やる気なんだね。
何の恨みがあるか知らないけど。心当たりも、ありすぎて良く分かんないや」

少女は無言で、勝手に戦の火蓋を切った。

鋭い風が剣を包んだ。
先程の攻撃の数十倍の威力はあるように見える。
少女は手加減などせずに、降り下ろした、筈だった。

「…やっぱり、綺麗な色だね。改めて見ても」

筈だった、が。

剣が、止まった。

金色は、一瞬の内に桜色になり、無くなった。

それは、少女の本気が破られた瞬間だった。

「でも、弱いね。
ちょっと加減間違えると殺しちゃいそう」

少女は次の攻撃を仕掛ける。

少女の背後に、光の玉が幾つか現れた。

雷の様なそれは、一斉にナノハに襲いかかる、

「…並みの魔導師より数倍強いくらいかな。
ん…や、もう少し強いね」

様に見えた。

実際は停止し、少女の意図に全く関係ない動きを見せた後に消えた。

「シグナムさんより強そう…。
レイとは互角に戦えそうだね。
はやてちゃんとは…、戦闘状況によるかな。
広域は勝負にならないね」

この世の物でない物を見るような目付きで、少女はナノハを攻め続けた。
少女は右腕を降り下ろす。
落雷が落ちた。
当たり前のように消えた。

「師でも居たのかな?
パターンがあるね。
ま、私にくらいしか分からない程度だから良いけど」

歯が立たない。
少女がそれを実感させられるのに、そう時間はかからなかった。

「ん~…。
此処まで来ると、大抵の奴等は雄叫び上げて野獣みたいな目で襲いかかって来るんだけど…」

少女は再び剣を出した。
今度は両手に握っている。

勿論ナノハの声など眼中に無い。

「声、出ないの?
それとも只の馬鹿なの?」

降り下ろされて、塵と化した。

「聞こえてる?
喉も耳も、頭も悪いんじゃ、人生謳歌出来ないよ?」

断じて、少女が弱い訳ではない。
ナノハが強いだけなのだ。

彼女の前では、どの様なエリート魔導師だって埃以下に見えるに違いない。

現に、少女の攻撃は相当の威力の物だ。

家具や床や壁の破損が起きないのは、それらが対ナノハ用に作られたからであって、普通の物だとしたら間違いなく粉々に砕け散っている。

「ああ、あんまし絶望しなくって良いと思うよ。
私は、トクベツだから」
―…漸く。

辿り着いた。

そう、思っていた。

しかし、実際は翼をもがれた鳥が両翼を羽ばたかせる鳥を見つけただけに過ぎないような状況下。
届かない存在を、見つめる事しか出来ない。

圧倒的な差。

「あれ…。震えてる?
脅かすつもりは無かったんだけどな。
そんなに蒼白しないでよ」

卑下されている訳でも無いのに、上から見下ろされているような屈辱感。
呆れる程に、全てが遠かった。

「ねえ、黙りしてないで何か喋ってよ。
まさか本当に声が出ないとか言わないよね?」

青い双眸が少女の瞳を貫いた。
楽しそうに笑っている。
射抜かれた少女は、対抗するかのようにゆっくりと口を開いた。

「―…母さんの」

「母さん?」

「母さんの、仇だ!」

ナノハ曰く、死んだ目で、枯れた声で、少女は叫んだ。

「…仇、か。
つまり以前私に母親を嬲り殺された、と」

少女は依然ナノハを鋭い目付きで睨んでいる。

「で、身寄りを失って見投げしようとした所を私が運良く…、拾ったと」
金色の剣がナノハに向けられる。
‐死んだ目‐は、笑っている標的に向けられていた。

「にしては、やけにボロボロだったよね」

「ずっと、お前を探していた…」

「…成る程。
でも見つからなかったから自殺しようと考えた、と」

返答は無い。
少女は渾身の力を奮って、剣を風に乗せた。

「ふうん…、何と無く事情は分かった。
あははっ、神さまって残酷だねえ」

そして消える。
当然のように跡形もなく無くなった。

信じられない。

少女の希望が、再び塵の如く消え去ろうとしていた。

「それで?」

桜色の羽根が白い空間に現れた。
それは優しく少女を包み込み、ナノハの傍まで引き寄せる。

「どうする気?
私を殺して、『自分は仇を討ち取りました』とか言って自殺するの?
だとしたら本当に只のお馬鹿さんだね」

邪気の無い笑みで少女を見つめる。
蒼眼は澄んだ海の水面のように綺麗で、しかしこの世の何より恐ろしく思える。

甘い声は少女の耳に届いては少女を震わせ恐怖に怯えさせた。

「自己満足で人を恨んで殺すだけの人生なんて詰まらないよ?
まあ、面白いかどうかなんて本人にしか分からないけど」

「…黙れ…」

少女の嗄れきった声は無視して、ナノハは楽しそうに少女に言葉を浴びせ続けた。
桜色の翼が靡く。それは少女の頬を撫で、顎を少し持ち上げると、ナノハが下方から少女の瞳を覗き込んだ。

「でも、死んだ瞳してるもんね。
楽しくは無いでしょ」

前髪を退け、顔が良く見えるように位置を変えた。
白く細い指と絹糸のような金髪が絡み、煌く。

「可愛い顔が台無し。
序に声も馬鹿みたいにガラガラしてる」

「黙れ…」

二度目は攻撃と共に発せられた声だった。
勿論それが届くことなど無く、幾度の少女の魔法光と同等に桜色に包まれて消える。

「やっぱり、原石だね。
何処までも磨けそうだよ」

微笑が少女の眼前を埋めた。
少女が、何かを叫ぼうとした時だった。
純白の、飾りも何も無い、ノブだけがある扉が開かれた。

「その辺にしたらどうです、主…。
破損はしなくても、埃が立ちます」

そこから霧のように現れたのは、漆黒の髪と真紅の眼を持った女性だった。
村人の証言と瓜二つのその女性は、少女が聞いた情報が偽りで無い事を物語っていた。

「レイ…」

「…朝食が出来ました。
冷めない内に食べてしまって下さい」

少女にとっては、勿論この女性も仇の対象の内にある。
刃が、

「食事には、きちんとお客様用のナイフがあるから、態々用意しなくても結構だよ」

現れる前に消えた。

「………」

言葉を失う少女から離れて、ナノハはベッドから立ち上がった。
扉に手を掛け、ナノハは少女を見据えると冷たく、そして優しく言い放った。

「置いてくよ?」

因みに、少女は故郷を捨ててからまともな食事を取っていない。
少女は俯き、迷いながら、着いていくことを決めた。




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