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#1続き。


ちょっと長いです。というかまえのが短いだけです。







力なんて要らなかった。
家族と、友と、笑っていられれば、それだけで幸せだった。

運命だとか、宿命だとか、
要らないものばかり溢れている。

そんな世界だからこそ。
思考でも変えないと、詰まらない。

そう…
受け継がれた意志は理想通りにいかない物だよ。
旋律者が奏でる曲を自分で制御できる訳ないじゃない。

だから、楽しめばいいんだよ。
思い通りに行かない世界。
理想郷よりずっとずっと面白い。

軽やかな螺旋に傷が入る。
だけど、それもまた、良いアクセント。

理解できない?
こんなに、世界は輝いているんだよ。









「なんといいますか…、まあ…。
実に貴女らしい考え方ですね」

真紅の瞳を持った女性が微笑みながら言った。
質素な服装には似合わない、艶のある髪。
女性の住居であろうそこは無駄に広い城だった。
周囲は森に囲まれていて、庭はかなり丁寧に手入れが施してある。
しかしこの城の所有者は彼女ではない。

「それは…、誉めているの?
それともただ単に貶しているだけ?」

妖艶な声だった。
何もかもを見透かしている様な、背筋が凍りつくようで、それでいて甘い独特のそれは、声と云うよりかは音に近いものがあった。
姿は、どこをどう取っても完璧な理想の女性のものだった。
亜麻色の透き通るような頭髪に、宝石のような青い瞳。
しかし、そこから感じ取れるオーラは人間離れしたものがある。
常の人間なら、近づくことすら許されないであろう。

「そうですね…。
五分五分です」

「はっきりしないなあ…。
…レイはどうなの?
自分の運命恨んでる?」

レイと呼ばれた女性。
本名はレイジング・ハートだ。
まどろっこしい言い方が面倒くさいとの理由で、彼女は略称で呼ばれていた。
そのことに関しては、彼女は肯定もしていないし否定もしていない。

「恨むも何も…。
私の運命は貴女が決めることです。私がとやかく言うものではありません」


彼女は頼まれた仕事は全てこなしていたが、こういう質問に対しては曖昧に濁すことが多かった。
今も、気まぐれで紅茶が飲みたいといわれ、生真面目に温度を測って煎れている。

「他人に自分のことなんて左右できないよ?
レイが今、ここで城から出て行こうとすれば何時だって自由になれる。
誰かさんの我が侭に付き合わされることも無くなる」

レイが紅茶をポットからカップに移した。
その様子を、青い瞳はただ見つめていた。

「それで、私に何処へ行けと?
暗い森の中、一人で野たれ死んで下等生物の餌になるのが関の山です」

熱を持った紅茶から湯気が耐えなく流れる。
それを差し出しながら、レイは言葉を続けた。

「それに、私は私が誓っているんですよ。
恩人へ、一生をもって恩返しをすると。
そう、前にも言ったはずですよ。主」

「そうだっけ?
まあ、そう言ってくれると助かるんだけど…」

ストレートティーを静かに口に持っていく姿も一々無駄が無い。
一口啜った所で、彼女はティーカップが一つしかないことに気がついた。

「レイは飲まないの?」

「洗うのが面倒なので」

はっきり答える姿に、彼女は詰まらなそうな顔を見せる。
しかし、何を思いついたのか、再び紅茶を口に含んだ。



「何を…、
っんん――…!?」

すると、彼女は急に立ち上がり、レイに紅茶を口移しで飲ませ始めた。
舌で唇をこじ開け、口内に液体を注ぎ込む。
突然のことに困惑したレイであったが、抵抗はせずされるが儘になる。
次々と流れてくる紅茶を、零さないように飲み干していった。

「―…っはぁ…。
…どう?おいし?」

「…そうですね。温度が変わってしまっているので、あまり」

全く空気の読めた発言ではない言葉にしばし呆れ気味だった彼女だったが、まあ何時ものことと諦めた。

「温度がいくら変わったって、レイの煎れる紅茶なら私は大好きなんだけどな」

「紅茶で重要なのは温度と茶葉とタイミングです。
どれがかけてもいいものなんて作れません」

「大事なのは真心だよ。
まあ、そういうレイの真面目で健気な部分が、冷めても美味しい紅茶にしてくれているのかもしれないけど…」

彼女としてはそんな気は全くとしてなく、ただマニュアル通りに煎れて注いだだけなのだが、それで主に美味しいと言ってもらえるのだからそれに越したことは無かった。

再度カップに口付け、今度は一気に残りの茶を飲み干した。
そして、鐘を告げる。


「さて、と…。
それじゃあ暇つぶしに、村の方にでも行ってみますかね」


立ち上がり、瞬時に彼女を包む純白の装飾が現れた。
桜色の光が舞う。

「レイも行くよね。勿論」

「…私に拒否権なんてあるんですか?」

「あるけど、付いてきてくれると嬉しいかな」

「…なら、付いていきますよ。
何処までも」

それは、友情でも、愛情でもない。
それは只の、堅く繋がった主従関係。


「いくよ。レイジングハート」

「はい。我が主の、お言葉の儘に…」


その、主の名は、
ナノハ・タカマチ。


世界を紡ぐ力を持つ者。

彼女の鐘の音は、世界に響くラプソディー。
人々をいとも簡単に動かしていく。








―しかし。

彼女にも紡げない旋律が、
彼女自身の気まぐれによって見つかるなどということを、

誰が予測できただろうか。

それは、
彼女すら理解の出来ない譜面であった。


―そう。
これはほんの序奏にすぎない。

曲は、鳴り止むことなど知らない。








運命。
運命。
運命。




恨みが、
怒りが、

支配した心には、

何も宿らない。




何も、
何も。














漆黒の海。
岸壁に、一人の少女が腰を下ろした。

外見は十代前半。
金色の髪を潮風に靡かせているその姿は、外見の幼さとは裏腹に大人びた雰囲気を漂わせている。
少女の瞳は紅い、炎の様な色彩であった。
しかし、少女は自分の瞳の色は好きではない。
少女が鏡を見ることは少なかった。

そしてまた、風が吹く。
少女の瞳は延々と、海と空の境目に向けられていた。
その後姿はガラスのようで、透き通った芸術作品独特の儚さを感じさせられる。
一瞬でも目を離したら、その隙に消えてしまうのではないのかという錯覚すら浮かぶ。

しかしそれも又、画伯が奏でる悪戯な筆の軌跡。
水彩の鋭敏さに通わせた、美しい影とも取れる。
悲しさ、辛さ、苦しさ。
残酷なこの世を、少女の後姿は反映しているようだった。


―例の火災から、既に四年の月日が経過していた。


あの日から今日に至るまで、彼女は白い悪魔の行方を辿っていた。
見つかりそうで、見つからない。
何時も、手が届く寸前で手がかりが消えていく。
捜索は少女が十にもならない内から開始され、初めは噂の詳細を聞き、それを辿っては放浪する日々。
最初は、母の復讐のためだと、身を削ることが出来た。
恨みが身体を動かし、復讐心が心を奮い立たせ、傷付くことを恐れずに何処までも追い続けると思えた。



しかし、世界は少女にそれ以上の苦しみを与え続けた。
土砂降りの豪雨の中、屋根も無い地面で一夜を明かすこともあった。
空腹、枯渇、痛み。
繰り返される地獄に、彼女の精神は限界寸前だった。
それでも彼女は追い続けようと思った。
そして、情報を手に入れる為、ある村へ入った。

そこで少女は、今までの苦痛の倍以上の、虐待を受けた。

殴られ、蹴られ、刃物で傷つけられもした。
そこの村の人々は、以前その村を訪れた人間に酷い目に遭わされ、その憂さを晴らすために少女を袋叩きにすることにしたらしい。

少女への仕打ちは、二年に及んだ。

少女はもう、駄目だった。
歩く気力さえ、搾り取られた。

傷だらけの身。
四年間、世界から刃を向けられ続けた少女の心は、もう、枯れてしまっていた。



―少女は、楽に、なりたかった。


少女は、まるで糸の吊るしてある人形のように立ち上がった。
少女の瞳に光は宿っていない。




少女は、思った。





『―もう、いいよね…。
ごめんね、母さん…―』



少女は、
世界から逃げることを決めた。



誰も咎めることは無い。
少女が、今ここで前方へと身を傾ければ、弱った人間の命など直ぐに奪ってしまうだろう。
闇で彩られた海が、少女を呼ぶように唸っていた。

* * *


「レイ~。
おなかすいた~。なんかないの~?」

そこは比較的人口が多い町だった。
住居も西洋風の物が主で、公園などの遊興施設もあった。
自然も豊富で、豊作物も良く育つ温暖地帯のため、平和をそのまま映し出したかのような情景が広がっていた。

「先程食事をとったばかりでしょう…。
あれだけ食べてもまだ足りないのですか?」

そんな町の中にある自然公園と呼ばれている場所に、二人の女性がベンチに座っていた。
場違い感が否めない二人を、通りすがりの学生や散歩中の老人たちが不思議そうに眺めていく。
勿論二人はそんなことは気にも留めない。
道端に落ちている石ころがこっちを向いているかどうかなんて一々確かめる必要も無いし、第一そんな気など起きるはずも無い。
二人にとってはその程度のこと。

「デザート食べてないんだもん。何か甘いもの食べたい」

「でしたら店を出る前に言って下さいよ…」

「あそこのお店のケーキあんま美味しそうじゃなかったし、種類も少なかったの~」

甘えてくる主を、レイは困った顔一つ見せず応対している。
その様子は主従関係とは程遠く、かなり仲の良い姉妹に近かった。
だからと言って、流石に二人が食事を取った店でいきなりキスをし始めた時には店員も驚いたであろう。
運よくこの町では同性愛が認められていたため助かったのだが、それでも公共の場で口付けを交わすカップルなど当然異例であった。


しかし、二人は勿論そんなことなど気にしなかった。
二人にとっては小鳥の囀りのようなもの。

「あ、ね!レイ。あれ買おーよ。クレープ!」

ナノハが露店を指差しながら言った。
薄い赤と白のストライプの屋根が印象的の、小さな店だった。

「別に良いですけど…」

「じゃ決定!買ってきて!」

「はいはい…。種類はどうします?」

立ち上がり、自らの懐から小銭入れを取り出したレイ。
金銭面での管理はほぼ彼女が遣り繰りしている。
ナノハに任せたら、度の過ぎた衝動買いをいくつもしてしまう恐れがあるためである。

「とりあえず苺が入ってればなんでもいーや」

「了解です。
…一つしか買いませんけど、口移しは止めて下さいよ?
甘いものは苦手なんですから…」

ナノハは詰まらなそうな表情を見せたが、まあ構わないという表情もあり、とにかくなんでもいいから買って来いと言っているようにも見えた。
レイはそれを感じ取ったのか、ゆっくりと店に向かって行った。



クレープの甘い香りが、
風に乗って彼女へとやって来た。

* * *


少女は身投げを覚悟した思考で、自らの人生を辿っていた。


六つのとき。
近所にいた女性に、魔術を教わった。
彼女は自分には資質があるといっていたが、正直自分ではよく分からなかった。
しかし、彼女の教え方はとても丁寧で、優しいものだった。
少女はあっという間に、基礎の魔導を全て取得した。

しかし、その女性は少女が八つになった途端に、どこかへと行ってしまった。

お礼も言えないままだった。

―もし、生まれ変わることが出来たのなら、一言礼を告げたい。


そう思いながら、

彼女は右手を中に差し伸べ、意識を集中した。





現れたのは金色の魔法光。
透き通った光のそれは、彼女を優しく照らしていった。






* * *

「お待たせしました。買って来ましたよ」

ナノハの言った通りに、そのクレープには色鮮やかな苺が盛り付けられていた。
店の屋根と同色のストライプの包装に包まれたそれからは、クリームと生地の甘い香りが漂っていた。

しかし、ナノハからの反応は無い。
呆けているのとは違う、寧ろ集中しているその表情からは、先刻までの緩みきった物など微塵も感じられない。

「…どうかしましたか?主」

レイが問いかけたが、返答はない。
変わりに返ってきたのは、彼女独特の、悪魔のように妖艶な微笑みだった。


「ね…、レイ。
ちょっと急用できたから、先に帰っててくんない?
直ぐに戻るからさ」

「・・・・・・はい?」


困惑、というよりは呆れた顔だった。
またか、というような。

「ついでにシャマルさん呼んどいてくれる?
あ。それ、はやてちゃんへのお土産って事にでもしといてよ」

意気揚々。
そんな言葉が似つかわしい笑みだった。



「そいじゃあ宜しく頼んだよ、レイ」

主人からの頼みを、彼女が断ることなどない。
どんな我が侭であろうと、ナノハの命令は、自分が確かにそこに在るという証なのだから。

「仰せのままに、我が主」

レイが目を瞑りながら告げると、ナノハは静に微笑み、その場から去った。
桜色の彼女の魔法光が軌跡となり、季節はずれの桜のように散っていく。
レイはその様子を見送りながら、主人から告げられた命令を執行するため、移動を開始した。




* * *


彼女が好物の菓子を見送りにしてまで確かめたかったもの。

それは、綺麗で、透き通った、純粋な魔力の、存在だった。


今まで感じたことのない、リンカーコアの波動。
非常に彼女の興味を誘った。
一体、どんな人間のチカラなのか。

しかし、それはとても弱弱しい物だった。

消える寸前の蝋燭のような、小さな光。
このまま消してしまうのは、非常に勿体ない。

何があったのかは、彼女は全くもって知らないのだが。
興味はある。



それだけで、理由なんて充分だった。


「ん~っと…。
確かこの辺の筈…」

そこは先ほどの町から随分と離れた場所にある、貧しい民族達が暮らす、枯れた土地だった。
このような場所にあのような綺麗な魔力が眠っているのかと、少し意外性も感じたナノハだったが、それはそれで面白いといえば面白かった。

彼女が標的を発見したのは、海に近い場所だった。

岬に、それは佇んでいた。
右手から意味もなく出していた魔法光がそれを包んでいる。
成る程、と彼女自身も納得していた。
こんな所まで来て期待に答えてすらいないものだったら、即座に木っ端微塵にしていただろうが、どうやら彼女が余計な魔力を消費する必要はなさそうだった。

例えるのなら、ダイアモンドの原石、といった所か。

磨き甲斐はありそうだった。
彼女はゆっくりと、それに近づいて行く。


しかし。

ここで予期せぬ事態が起きた。



それが急に、風の様にそこから身投げをしたのだ。



何となく予想はしていたが、まさか本当に自殺を計っていたとは。
彼女は呆れながらも、これで四人目か、などと考えていた。


金色の絹糸のような髪が、宙を舞った。
綺麗な鳥が翼を捥がれて地面に堕ちる様は、きっとこれに似ているのであろう。

そこで、彼女は考えた。

この鳥に、自らの羽根で飛ばせて見るのはどうか、と。
死の境界線まで辿り付いた鳥を、再びこちら側に引きずり込んで、無理やり飛ばせたら、一体どのような顔になるのだろう。

拝んでみたい。


―こうして、悪魔の気まぐれは始まった。


桜色の翼が羽ばたく。
俊敏に動くそれは、もはや肉眼では観測できない速度。
彼女が創る光の道は、美しく、どこまでも透き通った輝きだった。




そして、鐘が鳴る。

後戻りの効かない螺旋が彼女を包み込むことになろうと、
運命は廻り続ける。









「残りの命、私に預けてくれないかな?お嬢さん」




悪戯な神が奏でる、残酷なメロディー。
幻想曲は人々の心を掻き乱す。

絡み合う旋律。
狂い出す譜。



それは、悪夢の中で、踊りだす。






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